【子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー】第499回「教育はどこへ行く その3」
2002年3月12日にこの連載を始めて10年あまりが経ち、ちょうど区切りのいい次回第500回で「子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-」を終了することにしました。これだけの字数の文章を毎週更新するというのはけっこう大変で、私の生活にかなり変化を与えましたが、それはそれで、楽しい機会を与えていただいたと思っています。
さて、ちょうど10年目、まさに連載を終えようとしている時に、今後の「教育行政」に大きな影響を与えるかもしれない大阪府の教育基本条例案が可決成立したことは、何か因縁めいたものを感じます。今回まで3回連続で取り上げている「教育はどこへ行く」は、実は朝日新聞の記事を見て、それを基に1回で完結させるつもりだったのですが、「落ちこぼれゼロ法」と「大阪府教育基本条例」をいろいろ調べているうちに、500回にわたる連載の中で、私が述べてきたこととの関わりを強く感じて、だんだん伸びてしまい、とうとう3回目まで来てしまいました。
教育基本条例(私の含め、正しい理解がされているかは甚だ疑問ですが)については、かなり国民の意見も割れているというのが現実だろうと思います。マスコミ各社も割れていて、私がこの問題を取り上げるきっかけになった朝日新聞は反対姿勢、ネットを見ると毎日放送は報道特集で批判的な番組を放送していたらしいですから、毎日新聞、TBSは反対? 産経新聞はこういった条例を全国に広げようという主張をしていますので、賛成。読売がどうなのかは確認していませんが、日の丸・君が代の問題からすれば、当然賛成なんでしょう。朝日新聞は社としては反対なんだろうと思いますが、テレビ朝日の番組の中には連日橋下市長の動向や主張を取り上げている番組があるらしいので、社の方針だけで動いているのではなく、テレビという媒体の性質から、視聴率やプロデューサー、出演者に影響されているものもあるようです。
私は、これまでずっと述べてきたように、教育行政や学校・教師の姿勢、教育の閉鎖性などという問題については、非常に批判的なので、そこを正そうとする教育改革の方向性は理解できます。
既得権益というか、職場の環境を守ろうとする教職員の人たちの中には、この条例に強く反対する人たちが多くいると思いますが、公教育に関わる人たちの感覚と、保護者を中心とする社会一般(もちろん教員も社会一般人ですが、そういった関係の人を除く人という意味で)の人たちの感覚のずれが、今回の条例がそれなりの支持を集める結果につながっているんだろうと思います。
長年、問題を指摘されながら、なかなか状況を変えられない教育現場のツケとも言えるのでしょう。もっとも橋下市長は教職員組合だけをことさら批判していますが、私は組合であろうとなかろうと、全く同じことだろうと思います。
とはいえ、私はこの条例に大きな危惧を抱いている一人です。それは、教育が政治主導で行われていいのかという疑問を強く持っているからです。
憲法に規定する基本的人権の教育を受ける権利を覆すということでないとすれば、政治が教育に深く立ち入るということは、その時々の政党、政治家によって教育が支配されるということで、憲法上許されないと思っています。
法律論でいうとややこしい部分がありますが、まあ今の日本では考えられないことですが、たとえば社民党や共産党が政権を取ったら(市町村レベルなら絶対ないとは言えないかもしれませんが)、全く逆になっちゃっていいのか、教育ってそんなもんなのかということです。公教育は本来、普遍的であるべきと考えるのですが、どうも今回の条例はそうは思えない。それだけではなくて、公教育でどういう子どもを育てるかという部分で、経済優先の人間教育になっているように感じる。
経済優先で教育を考えた場合、たとえば米国の「落ちこぼれゼロ法」のように競争や数値化で教育行政を進めるようなことが起こるんでしょうが、それは「落ちこぼれゼロ」どころか、必ず落ちこぼれを生むという強い確信を持っています。経済優先の教育は、「人」を育てるというより、むしろ経済構造の中の一つの歯車を作ることに他なりません。
私は、教育や子育ては、思春期くらいまでは母性的(女性という意味ではなく男性の中にもある母親的な感覚)な関わりが中心であるべきと考えていますが、競争原理を中心に教育を行えば、それとは全く逆の方向に進んでいってしまいます。今回の条例は、母性的な感覚を排除していると感じてなりません。私の感覚では、それはとても怖いことです。
教育基本条例案の可決により、教育が一歩政治主導の方向に踏み出したことになるのでしょうが、競争や数値ばかりが前面に出て、ぎすぎすとした世の中にならないといいのですが・・・。
政治がこういう方向に舵を切り始めた時だからこそ、家庭の中では優しさいっぱいの子育てをしたいですね。人と人とが関わる時に、他人を思いやる優しさ以上に大切なものはないですから。
2012/03/26(月)
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
掲載された元のページも現在ご覧いただけるようになっています。
https://www.amatias.com/bbs/bbs_list.asp?current_page=50&forum_id=13


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