2019年11月 6日 (水)

【「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」第128回】「個性」

「弥生ちゃん、何それ?!」
「まんば」
「???」
「知らないんですか? やまんばメークのことですよ」
「???」
「だからさあ、こういうメークのことをやまんばメークって言うの。最近はねえ、それを“まんば”」
「ガハハハハッ、なるほどね! でもさあ、どうしてそんなふうに塗りたくっちゃうの?」
「だって、この方がかわいいじゃないですかあ!」
「そーおっ?」
「うん、絶対この方がかわいい」
「そうかねえ? なんにもしてない弥生ちゃんの方が弥生ちゃんらしくてかわいいんじゃないの?」
「えーっ?! 全然お化粧しないってことですか? すっぴんなんて恥ずかしいですよ」
「そうかなあ??? 私はそんなことないと思うけどぉ」
「すっぴんなんて、ありえない、ありえない、ありえない! ちょー恥ずかしいもん」
「そうなんだぁ?! なんか“まんば”の方が恥ずかしそうだけどね。弥生ちゃんだかだれだかわかんなくなっちゃうじゃない?」
「そうですかあ? ほらほら、ここの所をこういう風にやって個性出してるんですよ。いろんな風にできるじゃないですかぁ。すっぴんなんて絶対考えられない」
「ずっと“まんば”やってるの?」
「それはないですよ。大人になってこんなことやってたら、今度逆に恥ずかしくないですか? だから今しかできないんですよ。だから、今の高校やめて“まんば”やれるところへ移りたいわけ。ほら、この雑誌に出てる子、××高校って書いてあるでしょ。こっちの子は××高校。ウチの学校だと髪の毛染めるの禁止で、ちょっとでも黒じゃないとちょーうるさいしぃ…。うざい!」

弥生ちゃんは私立高校に通う16歳。“やまんばメーク”をするために高校を替わりたいと言っています。弥生ちゃんと会ってから、テレビの“まんば”の番組を見てみました。“まんば”という1つの風俗は、それ自体かなり強烈な個性を持っているのに、その番組に出ている子たちを見てみると、どの子が誰で誰がどの子かよくわかりません。“まんば”という強い個性がそれぞれの持つ個性を消してしまって、“××さん”という個人が“まんば”という集団に呑み込まれてしまっています。

「私、雑誌に載ったんですよ。ほらっ、このページ。私、どれだかわかります?」
50人あまりのやまんばメークの女の子たちがその雑誌の編集部を訪れたときのスナップ写真と集合写真が見開き2ページにたくさん載っています。
「うーん…」
なかなか見つけられずにいると、早く見つけてほしい彼女が、
「ほらっ、ここ!」
と指をさしてくれました。
「ほんとだ!」
その写真を指さされても、「これえ?」っていう感じだった私は、
「まだ載ってるよ。あとはどこだかわかる?」
という彼女に促されて、指さされた写真と同じ服装をした子を必死に探して、
「見つけた! ほら、これとこれ! あっ、ここにも映ってる!」
すると弥生ちゃんはビックリして、
「あっ、ほんとだ! 気がつかなかった!」
たった見開き2ページの中に映っている自分が見つけられない個性の無さ。自分をアピールしようとして個性をなくしてしまっている矛盾と滑稽さ。
「この前、まんばの番組見たよ。なんだかみんな同じに見えた。まんばの子ってみんな優しいんだなって思ったよ。あんなに個性的なカッコしてるけど、ほんとはみんな自分をさらけ出すのが苦手なんじゃないの? だからきっと自分を隠すためにあんなに塗りたくってるんだよね」
「そうかなあ? でも確かにそういうところはあるかも…」
自己主張をすることでかえって自己主張を消している、そんな状況に弥生ちゃんも考え込んでいました。


**9月27日(月)掲載**

※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
 

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