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2024年4月 3日 (水)

【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第301回「達成感 その2」

第298回でも取り上げた通り、2月24日に藤井舞踊研究所(モダンダンス)の発表会がさいたま芸術劇場でありました。この連載にも何度(第212、213回)か登場していただいています(私が勝手に登場させたわけです)が、藤井舞踊研究所を主宰する、藤井公先生と利子先生には、20年以上にわたり子どもたち、そして今では孫たちがお世話になっています。前回の発表会では参加した全員の中で、蓮が唯一の男の子、沙羅が最も年少(しかも同い年の子の中でもとても背が小さい)で、蓮と沙羅が舞台に登場したとたん、踊りが始まっているにもかかわらず、男の子が出てきたということ、そして舞台の広さや周りで踊っている子どもたちに比べてあまりにも沙羅が小さいことに、観客席のあちこちから「男の子だ!」とか「かわいい!」とかいう押し殺した歓声が上がりました。
今年の発表会で、蓮と沙羅が最初に舞台に登場したのは、踊りではなく、プログラムが始まる前の、皆勤賞の表彰式でした。皆勤賞をもらう全員が舞台に上がり、演台の向こう側で賞状を読み上げる公先生から、ひとりずつ手渡しで賞状を受け取ります。中学生、小学生と受け取り、いよいよ蓮と沙羅の番。舞台衣装を着て並んでいるので、蓮が男の子であるということはそれほど目立たなかったのですが、公先生が賞状を読むとき、小声で「男かぁ」とつぶやいた声をマイクが拾ったので、「おっ」という雰囲気が会場全体を包みました。100名ほどの門下生の中で唯一の男の子ですからそんな会場の反応もうなずけます。去年に比べるとずいぶんと成長して、他の子どもたちと並んでいるときにはそれほど小ささが際だっている感じもしなかった沙羅も、演台の前に進むと、なんと頭すら演台の上に出ません。公先生が演台から身を乗り出すように沙羅を見ると、「かわいい」という声と笑いが混ざったような歓声が客席に響きました。私からすると沙羅は、ここのところ生意気な口をきき出して、ちっとも言うことを聞かなくなってきたので、「あんなにちっちゃかったっけ?!」、そんな感じです。
どうやら今年は、沙羅より下の子どもたちが入所したらしく、その子たちが6~7名で群舞を踊ったので、演台の前に立ったとき以外は、それほど沙羅の小ささが際だつこともなく、だいぶ緩和されて見えました。
蓮も沙羅もこの日の舞台のために、休まず稽古に通いました。そして母親の麻耶は、「天使のお使い」というタイトルの踊りのために、夜中までミシンをかけて大きな大根と人参を作っていました。
去年の舞台では周りのお姉さんたちや蓮を見ながらやっとまねをしているという感じで、まだまだ「おみそ」でしかなかった沙羅は、今年はすっかり一人前に踊りきり、むしろ蓮よりもしっかり踊っていました。小さな子どもでも、張り詰めた緊張感と大きな集中力を持って、物事をやり遂げられるということに感心をし、びっくりもしました。
その日は、伊勢崎の病院に入院している叔母を見舞うため、急いで会場をあとにしたので、舞台後、蓮と沙羅と顔を合わせたのは、夜遅くなって自宅ででした。大きな舞台を終えて、さぞ興奮して話したいことがいっぱいあるんだろうと、「蓮くん、沙羅ちゃん、上手だったねえ」と話を向けると、返ってきた応えは「うん」の一言だけ。そのあとも、どんな気持ちだったのかと、いろいろと声をかけてみますが、返ってくるのは素っ気ない返事ばかり。しっかりやり尽くしてしまうと、もう子どもは前を向いてしまって、後ろは振り返らないものなんですね。
それと時をほぼ同じくして開かれた幼稚園の発表会。モダンダンスは振り付けが決まっていて、舞台に立っている全員が心を一つにすることを求められますが、蓮と沙羅の通っている幼稚園は、それとは対照的に、無理矢理教え込むのではなく、子どもの内面からわき出てくるものを大切にしようという教育方針もあって、発表会といっても特別に覚えたものではなく、教室で普段展開されている子どもたちの遊びを「普段のまま」舞台で見せます。これには、子どもの心に大きな負担がかからないといういい点もありますが、何かを作り上げるといった努力と達成感や人に見せるということの緊張感や表現力が育たないという欠点もあります。
発表会が終わってうちに帰ってきた蓮と沙羅は、発表会で使ったお面や剣を放さず、うちの中でもそれぞれが発表会で演じた役をそのまま演じています。それはしばらくの間続きました。
役になりきっている蓮と沙羅を見ていると、一見豊かな想像力に包まれているようにも見えますが、モダンダンスの発表会での二人の緊張感とその後の二人の言動を知っているだけに、お面をかぶり、剣を振り回している二人からは、「幼稚園の発表会では、達成感がなかったのかな?」そんな気持ちが湧いてきました。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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