【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第278回「子どもを信用するということ その2」
ポニー乗馬コーナーを離れようとすると、大きなカメを持ったお姉さんがやってきました。かなり重そうです。甲羅の直径は、50~60㎝はあるでしょうか。甲羅の脇に手をあてがって、やっとの思いで腰の辺りにぶら下げ、おっちらやっこら持っているという感じ。
そしてそのカメを、高さ1mくらいの木の柵で囲まれた10畳ほどの細長いスペースに入れると、今度はどこからともなく草のいっぱい入ったバケツを持ってきて、小学生の女の子を従え、柵の中に入っていきました。
「××さん、今度はお食事ね。この草をカメにやってね」
(ああ、そう言うことね。この草って、カメのエサなんだぁ)
お姉さんはそう言うと、まず自分でカメにエサをやって見せました。そして、小学生の女の子がそれに続き、エサをやっています。
その光景をずっと見ていたので、気づかなかったのですが、いつの間にか柵の周りには、小学生の女の子のお父さん・お母さんらしき人と、おじいちゃん・おばあちゃんらしき人がカメラを構えて立っていました。その後ろには、「副園長」というプレートをつけた男の人も立っていました。
「カメって、こんな草を食べるんですね」
私が、カメを抱えてきた動物園の係らしいお姉さんに声をかけると、
「ええ。このカメは陸に住んでいるカメで、こういう草も食べるんです」
と答え、柵の中でその大きなカメの背中に今にも乗りそうなくらいの勢いで、まったく怖がることもなく、平然とエサをやっている小学生の女の子を不思議そうに見ていた私たちに対し、
「今、この子が甲羅をタワシで洗ってくれたんです。今日は、この子が一日このカメの面倒を見てくれるんですよ」
と言いました。
「へぇーっ?!」
私たちが、びっくりしたような顔をすると、
「この子はイベントの当選者なんですよ。この子の“願いごと”が、カメの世話をすることだったので、今日は一日カメの世話をしてもらっているんです」
と続けました。
「へぇーっ?!」
こんなところ(公立の動物園)が、イベントの当選者に『豪華(?)賞品』を出すということに、まずびっくりして、そして目の前のとってもおとなしそうな小学生の女の子が、その『豪華賞品』に「カメの世話」を選ぶとは!
エサをやり終わった女の子とカメは、お父さんカメラマンとおじいちゃんカメラマンのモデルになって、たくさん写真を撮ってもらっていました。
次に、回ったのは「なかよしコーナー」です。ここには、どこの動物園でも触れ合うことのできるモルモットやウサギといった小動物がたくさんいます。そして、ここもまたカブトやクワガタと同じように、たくさんの子どもや大人に囲まれた台の上にモルモットやウサギが無造作にたくさん放されています。
係の人はそれぞれの台に一人ずつ。どう見ても、子どもたちすべてを管理するには、人数が足りません。
「勝手に抱いちゃっていいのかなあ?」
「自由に」ということに慣れていない私たち大人は、係員によって管理をされないといろいろな場面で躊躇します。
子どもたちは、とても順応性が高く、すぐその雰囲気を察知するのか、どんどん自由にいろいろな動物をだっこしていました。
ここは、基本的に子どもたちがいたずらや悪いことをしないという前提で運営されているということが、伝わってきます。
動物園にいる間、禁止や注意をする職員の声を一度も聞きませんでした。そして、子どもたちもそれに応えて、とても丁寧に動物を扱っています。「子どもを信用すること」、そういうところから子どもたちの優しい心は生まれるんだということを目の前で見た気がしました。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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