【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第260回「会津 母親惨殺事件について思うこと」
ここのところ毎日のようにニュースを賑わしているのは、殺人事件。その中でも、とりわけ私たちに大きな衝撃を与えたのは、5月15日未明に会津若松市で起こった、17歳の少年による母親惨殺事件でしょう。
「母親殺し」というだけでも、私たちに充分なショックを与えるのに、母親の首を黒いショルダーバッグに入れ、警察署に自首をしたという事実は、私たち子どもを持つ親にとっては、身の毛がよだつような衝撃を与えました。
私がこの事件を知ったのは、インターネット上に配信される文字だけのニュースでした。「“母を殺した”17歳少年が生首を持って出頭」といったニュースの見出しを見ても、文字だけ、特にネット上に流れる文字だけというのは、次から次へと流れて去っていく情報に、あまり大きく心を動かしません。とはいえ、私にとって「文字だけ」ではあったにしても、それなりのインパクトのある事件ではありましたが、その後のテレビのニュースを見たときの印象というものは、インターネット上での文字とは、比べものにならないものがありました。
私がテレビでニュースを見たのは夕方で、すでに第一報ではありません。当然、マスコミには多くの情報が寄せられ、「殺害後の少年の異常行動」として、「インターネットカフェでDVDを観た」「タクシーに乗って出頭」「黒いショルダーバッグに母親の頭部を入れて…」というようなことが伝えられ、少年が出頭したという会津若松署の玄関の映像や少年の通う高校の記者会見の様子、少年を知る近所の人たちのコメントなどが、どの放送局からも流れていました。
「生首」を持っての自首ですから、事件の状況は、警察の記者会見などを通じて、早い段階からある程度明らかになります。事件の状況が詳しくわかればわかるほど、事件の凄惨さとは対照的に、少年の行動の冷静さが際立ってきます。マスコミにより「異常行動」という報道のされ方をした「インターネットカフェ」や「タクシー」のことも、私には異常とは感じられず、母親を殺して首を切断したあとの人間の行動としては、この少年の人間像からすると「普通の行動」だったように感じます。「わぁー」と冷静さを失い、衝動的に人を殺したというようなこととは違い、今回のように冷静さの中で進んでいった殺人の場合、自首をするという行動を考えるなら、高揚した気持ちを一旦収めるための時間的、空間的余裕というものが、少年には必要であったのだろうと思います。
この事件の内容とは別に、とても気になったことがありました。それは、少年の通っていた高校の会見です。
こういう状況下での会見は、その学校の持っている本質を非常によく表します。今回の記者会見は、学校側があまりにも冷静で、とても冷たいものを感じました。当然のことながら、記者の質問は編集で切られているので、具体的にどんな質問をされているのかはわかりませんが、学校の発言は、あまりにも「事件を起こした」ということに沿った内容になっており、しかもとても簡単に少年の学校での行動が公開されていく。個人情報にはうるさくなった世の中にもかかわらず…。
「普段はおとなしく、一人でいることを好んでいるようだった」「国公立大学の理系学部を志望」「科学部に所属していたが活動にはまったく参加していなかった」「昨年9月の修学旅行は、出発当日、少年本人から体調不良を理由に参加しないという連絡があった」「2年生の9月以降の欠席は計20日間。今年度に入って4月以降、登校したのは始業日の9日から5日間」。
私には、テレビから流れる会見の様子が、まるで教室にいる生徒たちにその日の連絡事項を伝えるホームルームのように見えました。
「ここの学校は、自校の生徒をこんなふうに扱っているんだ!?」
まだ事件の概要しかつかめず、具体的なことは何一つはっきりしていないわけだから、こういう時の学校の発言というのは、言葉を選び、少年のプライバシーに配慮をしたものでなくてはならないはずです。それがどう聞いても、ワイドショーや週刊誌の興味を奮い立たせるような内容にしかなっていない。警察の詳しい取り調べもこれからなわけだから、
「わが校の生徒が世間をお騒がせいたしましたこと、大変申し訳ございません」
それ以上のことは、「ただ今、警察での取調中ですので、全面的に警察に協力させていただきます」
せいぜいそんなところではないかと思います。
まさか事件の原因のすべてが学校にあるなどという言い方をするつもりはないけれど、もし事件の原因の一端が「少年の孤独」という部分にあるとすれば、学校のこうした姿勢にも責任はあるように思います。
少年は「特殊で変な子」という言い方の高校に対して、少年を知る近所の人たちが、口を揃えて「いい子ですよ」と言うのが印象的でした。
この事件は、「特殊な事件」ではなく、誰の身近にも起こりうる「普通の事件」なのかもしれません。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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