【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第250回「誰の子?」
民法772条により「戸籍がない状態になっている子」が問題になっています。
最近、テレビのニュースなどで大きく取り上げられたので、ご存じの方も多いと思います。
民法772条【嫡出の推定】には、
①妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
②婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
と規定されています。
第1項により、婚姻中に懐胎した子は嫡出子と推定され、さらに第2項により、婚姻成立の日から200日経過後、または婚姻の解消もしくは取消の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定するわけです。
752条で、「夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない」と定めていますから、夫婦は、同居して共同生活を営むというのが通常であり、さらに、第770条【 裁判上の離婚原因 】で、夫婦の一方から離婚の訴を提起できる理由を、
①配偶者に不貞な行為があつたとき。
②配偶者から悪意で遺棄されたとき。
③配偶者の生死が三年以上明かでないとき。
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込がないとき。
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
という5項目に限っていることを考えると、民法は、婚姻関係が継続している状態での夫婦以外の性的関係をかなり厳格に規定しているものと言えるわけです。
これは、「誰の子であるか」という問題が、ことさら財産権の問題である以上、やむを得ないのだろうと思います。
「夫婦は不貞をはたらかない」という前提のもと、それぞれの財産に関わる権利、養育の義務等を規定しようとすれば、妊娠期間を考慮して、表現としてこんな形になるのでしょう。今は、出生届を受理されず、「戸籍のない状態の子」が取りざたされていますが、よく考えてみると、実は”前夫”の子ではないにもかかわらず、養育費を払い続けさせられている”前夫”というケースも多いのではないかと思います。そういった意味では、不利益を被っているのは、女性や子どもだけとは言い難い部分もあります。
772条は、第1項、第2項ともに、「推定する」となっています。民法の規定には、「推定する」という表現の他に「看做す」(みなす)という表現があります。「看做す」という表現は、「性質を異にする事物について、法律上これを同一視する」「実際はどうであるかにかかわらず、こういうものだとして扱う」という意味で、「同一視する」「こういうものだとして扱う」というわけですから、基本的にはそれをひっくり返す余地はないわけです。772条は「推定する」となっているので、嫡出子ではないと証明されれば、夫の子ではないと判断がひっくりかえる可能性を含んでいます。そういう意味では、ひっくり返すこともそう難しくないということでもあるわけです。
それでは何が問題なのかと言うと、772条ではなくむしろその後の、
第773条【 父を定める訴え 】
第733条第1項(前婚の解消または取り消し後6ヶ月以内は結婚できない)の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によつてその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
第774条【 嫡出の否認 】
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
第775条【 嫡出否認の訴え 】
前条の否認権は、子又は親権を行う母に対する訴によつてこれを行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
という3条です。
どの条文を見ても、母親からは訴えを起こせない。
科学技術の進歩により、誰の子であるかがほぼ確定できる今日において、果たして、事実関係を曲げて戸籍を作ることや事実関係が明らかになるのにもかかわらず、形式を重んじて出生届を受理しないということが正しいのか…。
長勢法相は9日の閣議後の会見で「考える点、見直すべき点があるだろうと思う。どういう方策がよいか考えている」「きちんとやっている人が、あの条文のためにいろいろ支障を生じることがあるという話を聞いている」と述べて、法の運用を見直す考えを明らかにし、前夫との離婚成立後に妊娠したことが明らかなケースなどを念頭に置いて、救済策を講じる意向を示唆したそうです。事実関係がわからないならともかく、「わかる」という状況がある以上、どんな場合でも事実関係に基づいた処理ができるよう、法の運用を柔軟にすべきだろうと思います。
おそらく法相の発言の中には、「不貞をはたらいた女性まで保護する必要があるのか」という含みがあるものと思われますが、少なくとも前夫による婚姻中の不貞による「慰謝料請求」という道が閉ざされるわけではないわけだから、「親子関係不存在確認の訴え」や「嫡出否認の訴え」といった後ろ向きの訴えだけではなく、たとえ前夫の協力が得られないとしても、母親なり子どもあるいは新たな夫なりが、どんな形にせよ証明することで、「親子関係存在確認の訴え」が認められるよう配慮すればいいと思います。
事実を事実として真っ直ぐに捉える、それでこそ「推定する」という条文が生きてくるように思うのですが…。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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