【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第256回「選挙」
「今日ね、ダイアモンドシティに行ったら、あそこの川のところでKさんが選挙カー止めて演説してたよ。だからね、車の中から手を振ってあげたら、“お車の中からのご声援、ありがとうございます”って言われた」
「あれっ、おまえ、直接知らないんだっけ? 降りていって声かけてあげれば喜ぶのに。“大関の娘です”って言えばわかるだろっ」
「だって、川の反対側で、こっちとあっちだったんだもん」
「そうかぁ。じゃあしょうがないな」
Kさんと初めて会ったのは、旧浦和で市会議員をしていたAさんが中心となって開いた環境保全の市民運動の会でした。そしてその後、たびたびAさんの事務所で顔を合わせるようになりました。妻が、浦和市立南高校で長年教師をしていたことや浦和市立三室小学校でPTA会長をしたとき、かなりマスコミから注目されたこともあり、Aさんの会では、妻も私もよく意見を聞かれたり、話をしたりすることが多かったので、Kさんは私たちのことをよく知ってはいたようでしたが、私たちはと言えば、あまり自分から口を開かないKさんのことは、顔を知っているという程度で、視線が合えば軽く会釈くらいはしますが、それ以上の関係でもなく、話をしたこともありませんでした。
今考えれば、Kさんは川口在住だったので、浦和のAさんの会では一歩引いていたということだったんでしょうね。
私にとって、Kさんの存在がクローズアップされたのは、突然私の地域の小学校のPTA会長になったときでした。私は、すでに真(まこと)、麻耶(まや)が在校中にPTA会長をしていたのですが、Kさんの存在はまったく知らず、KさんがPTA会長になったとき初めて、「ああ、あの人、Aさんのところでよく見かけた人だ! 同じ地域に住んでたんだぁ」というような具合でした。
翔(かける)の学年で再びPTAの役員をやることになり、その後何年間か、K・PTA会長の下、私は学年委員長をやらせてもらいました。Aさんのところで、よく顔を合わせていたとはいえ、実際に具体的な活動をやってみると、考え方ややり方にかなり違いがあり、ぶつかることもしばしばでした。そしてKさんは市会議員に。当選後もPTA会長を続け、お子さんの卒業後、再び私がPTA会長を引き受けることになりました。
Kさんとの関係は、それにとどまらず、なんと今度は息子さんが妻の教え子に。妻の元の職場も含め、狭い地域に住んでいるので、麻耶の担任だった先生の息子さんが妻の教え子になったり、私がPTA会長をしていたときの副会長や専門部長のお子さんが妻の教え子になったりと、よくあることではあるのですが、ちょっとビックリしました。
ところが、昨年、妻の教え子であったKさんの息子さんが、交通事故で亡くなってしまったのです。今回の選挙は、その息子さんの一周忌前。先日、ポストに入っていたKさんの出陣式のお知らせには、「息子さんの死」についての心境も語られていました。
金曜の朝、選挙事務所に陣中見舞いに行き、Kさんご夫妻と話をしていると、やはり一緒にPTAで役員をやっていたSさんがやってきました。手には、Kさんの出陣式のチラシを握っています。
「犬の散歩してたらさぁ、こんなのが小学校の前の掲示板のポスターの上に貼ってあったから剥がしてきた」
チラシには、赤いマジックで書き込みがしてあります。文章の細かい部分にいちいち文句が書いてあり、息子さんについて触れた部分には、「選挙の具にするな!」というような書き込みがしてありました。確かに一つの主張として、言っていることもわからなくはないですが、「こんな書き込みをして、わざわざ掲示板のポスターの上に貼るかなあ」という感じ。1丁目、2丁目しかない本当に小さな地域ですから、町会の広報誌にKさんの息子さんが亡くなったことは載っていました。Kさんの市会議員という立場からすれば、町会内では周知の事実。Kさんは、「字を見れば、誰だかわかるんですよ」とは言っていましたが、まだ癒えない息子さんのことに触れられたのには、やや参った様子でした。
選挙で誰を推すかは、それぞれの考え方もあるので、違うのは当然。けれども、地方選挙での誹謗中傷のやり合いは、溝を作るだけで何も生まれません。
かなり昔のことですが、旧浦和市のある学校では、PTA会長が保守系の市会議員、副会長が共産党の市会議員ということがあったり、PTA会長選が市議選の前哨戦になるというようなことがありました。PTAを政治に利用するのも「いかがなものか」(もちろんどこのPTA会則にも政治的中立を謳った文言があると思います)と思いますが、どちらを指示するということではなく、政治的意識が必要なこともまた確かです。政治的に相容れない部分はあるでしょうが、思想信条の違いだけがクローズアップされ、誹謗中傷のやり合いから、教育現場の混乱や不信感を増大させるのではなく、違いを認め合い、違いを越えた部分で地域の教育を進めたいものです。
朝9時ごろ、孫の蓮(れん)を連れて、選挙に行ってきました。投票用紙に名前を書き、投票箱に入れた瞬間、蓮が小さな声で、
「捨てちゃうの?」
と聞きました。私は思わず「ぷっ」と吹き出してしまいましたが、蓮の言葉に「確かに!」とえらく納得がいきました。立会人の皆さんは、いつも地域の集まりでご一緒させていただいていた方々なので、大声で笑うわけにもいかず、私の顔を見てニコニコしています。一応説明はしましたが、蓮は投票所を出るまで、ずっといぶかしげな表情を浮かべていました。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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