【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第237回「最近の親子事情 その2」
ついさっき茨城県笠間にある工房ヒメハルの穴窯(薪で焚く陶芸窯)での焼成を終え、帰ってきました。ヒメハルというのは、笠間から益子に向かう途中の仏頂山に生息する天然記念物、片庭ヒメハルゼミから取ったもので、この工房ヒメハルは、私が長年陶芸窯の築窯をお願いしている橋本電炉工業が所有していて、そこの穴窯をお借りして焼成させていただいています。工房ヒメハルの穴窯による焼成は、今年3月に初めて行いました(第203回「ゆっくりと過ぎる時間」参照)が、その時の評判が大変よかったため、当初年1回の焼成を予定していましたが、急遽今回の焼成になりました。前回に引き続き、数日間におよぶ穴窯焼成は、陶芸教室を休みにしないで行うために窯焚きを手伝えるスタッフの数と時間が限られており、私一人にかかる肉体的負担も大きいので、今回もけっこうきつい窯焚きになりました。今回は3昼夜、約74時間ほどの焼成でしたが、その間眠ったのはわずか4時間。「もう限界」という感じです。
その今回の焼成を支えてくれたのが、現在工房ヒメハルで作家として活動し始めたO氏。川崎育ちのO氏は、川崎で仕事を持っていましたが、その仕事を辞め陶芸作家の道を選び、数年前から笠間で作家として生計が立てられるよう努力を続けています。まだ道半ばというところでしょうか。かろうじて生活はしているようですが、普通に生活ができるようになるまでには、あと少しといった様子でした。
「もっと寒いと思ってたら、今回は窯の周りを薪で囲んだのが幸いしたのか、火を入れたばっかりでまだ窯が暖まっていなかったのに、夕べは寒くなく過ごせましたよ。前回は2晩、とんでもなく寒いおもいをしましたからね」
「ほら、前回大関さんが窯焚きをしていたときがありましたよね。大関さんが窯焚きをしているっていうのは聞いてましたけど、あのころの私は、まだここできちっと仕事してたわけじゃなくて、その辺のコンビニの駐車場で寝袋に入って転がって寝てたんですよ。あのときは春なのに寒かったんですよ」
「変わった若者だなあ」と思いました。陶芸家を目指す人の中には、ときどきこういう人がいます。有名美術大学で陶芸を学び、生活は親がかりで、比較的楽に陶芸作家としてデビューする人もいれば、かなり厳しい経営状況の陶芸業界の中で、製陶所への就職もままならず、O氏のように必死でデビューを目指す作家のたまごもいます。とりあえず生きていくことだけはできるようになったO氏は、満足そうに、
「泣き言みたいなことは言えないですよね。同級生なんかと会ったとき、そんなこと言ったら”おまえ自分で選んだんだろ”って言われちゃいますよ」
と笑っていました。
彼に年齢のことは聞きませんでしたが、30歳は越えているだろうと思える彼の両親はどう思っているんだろうと思いました。”充分な生活”にはほど遠い彼の生活ですが、そこには”充分な満足”は感じることができました。これから彼がどんな生活を送るのか、それは彼自身が決めていくことですが、そこに”充分な生活”が待っていなくても、きっと彼は”充分な満足”を手に入れることはできるんだろうな、と思いました。
カウンセリングや教育相談を受けに来る子どもたちを見ていると、そこには共通していることがあります。それは、子どもたちが自分の夢を持てなくなっていることと親の夢(自分の子どもにはこう育ってほしい)を押しつけられていること。当たり前といえば当たり前ですが、この二つがセットになっていて、子どもたちの上に大きくのしかかっているのです。うまくいけば、その「親の夢」は、”充分な生活”を保証するものなのですが、たとえうまくいって”充分な生活”を手に入れたとしても、それは親にとっては”充分な満足”であるのに、あくまでもそれは「親にとって」であり、子どもにとって”充分な満足”につながるとは限りません。
O氏の生活が、人間にとってすばらしい生活であるかどうかは、価値観の問題ですから、何とも言えません。けれども、どんな子どもたちにも必要なのは、”充分な生活”なのではなく、”充分な満足”なのだということには、確信を持っています。
どうしたら子どもたちにおける”充分な満足”が手に入れられるのか、さらに考察を続けたいと思います。
つづく
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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