【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第239回「最近の親子事情 その3」
今日(10日)は、浦和教育カウンセリング研究所主催で、子どもの自殺を考える緊急シンポジウム「子どもを自殺に追いやらないために」を開きました。埼玉弁護士会で子どもの権利委員会に所属し、「子どもの弁護士ホットライン」に関わっておられる岩本憲武弁護士をお招きして、「子どもたちの叫び」-少年犯罪の現場から-と題するお話を聞かせていただきました。事件の中に垣間見える親子関係には心が痛むものがあります。完全に崩壊した夫婦関係の中で育った子、まったく経済力のない母親一人に育てられた子、希薄な親子関係の中で育った子、それぞれ子どもの抱える心の闇には、大変深いものがあります。
板橋の両親殺害事件に象徴される、少年事件の厳罰化が果たして正しい方向なのか。裁判所は両親による重大な虐待はないとの判断だったようですが、言葉による虐待が繰り返されていたことが明らかになっているだけに、情状酌量の余地がなかったのか、懲役14年の実刑判決には、大きな疑問を抱かざるを得ません。
今日の岩本先生のお話からも、事件を起こす子どもたち自身の責任を感じることはできませんでした。大人によって歪められていく子どもたちの心、豊かな愛情に包まれ育てられてさえいれば、おそらくまっとうな子どもに育ったであろうことは充分想像できます。単純に厳罰化を進めるのではなく、こういうときだからこそ、大人の問題としての捉え方が重要になっているのだろうと思います。
さて最近の、あまりよくないと考えられる親子関係は、大きく分けて二つのパターに分けられます。何度かこの連載の中でも触れては来ましたが、一つは、親が自分自身の生活を大切にし、子育てをほとんど放棄してしまっているようなパターン。もう一つは、「子どもなしでは生きられない」という親のパターン。もちろん、それが複雑に絡み合って、両者を行ったり来たりしているような場合も考えられます。
教育問題が政治的に利用されようとするとき、「戦後の行き過ぎた民主教育」という言葉がよく使われます。しかし、学校における子どもたちの状況や親の主張、あるいはうちに教育相談に訪れる子どもたちの状況などを見ていると、「戦後の民主教育」などというものでは全くなく、日本経済に踊らされた親子関係、特に80年代バブル期における国民全体の消費志向の高まり、それが現代の教育問題に大きくのしかかってきていると言っても、過言ではないと思います。
バブル崩壊後、日本は長期の不況に見舞われました。しかし、そこで国民の意識が変わったかというと、どうも変わっていない。むしろ景気が悪くなればなるほど、企業は物を売る努力をするので、日本全体の消費支出の総体は減ったとしても、「お金があったら買いたい」あるいは「安い物なら買いたい」という意識は根強く存在した。おそらく、国の財政はほとんど破綻状態だったにもかかわらず、個人の懐はそれほどでもなかったのではないでしょうか。だから、景気が回復する以前から、ブランドブームが押し寄せた。これは、経済を優先してアメリカ化を強く押し進める政府の政策ともぴったり合致しているのです。
高校を中退し、万引きや援助交際を繰り返す子の話をよく聞き、行動を分析すると、”やめられない消費”(物を買うことが喜びといった)にたどり着くことがほとんどです。それほど高い物ではないにしろ、あまり必要とは思えないような物を次から次へと買う。あるいはダイエットのために薬やサプリメントを使ったり、エステやジムに通ったり…。使うためのお金が必要なのだから、楽にお金を得る方法を考える。親にお金をせびったり、ときには親の財布から黙ってお金を抜いたり、さらに一歩進んで援助交際をしたり…。しかしそれも、もとをたどれば、お金を使うことに抵抗のない親の消費志向にたどり着きます。親の夜間の外出や頻繁に行われる外食といった子どもの心と結びつくような場面の少なさ…。
そういったケースでは、親は自分のために生活を回している場合が多く、例えばお金を子どもに与えるにしても、思春期を迎えた子どもとの壮絶なバトルを嫌って、自分が楽になるために、子どもをおとなしくさせようとお金を与えることが多いのです。
また、子どもにすべてをかけてしまっている親の場合、夫婦関係に問題があったり、地域の中で孤立をしているといった場合が大変多い。人間は関わり合いの中で生きている動物ですから、夫との関係が希薄であったり、地域との関わりが少ない中で生きていくのは困難です。結局、その困難さを乗り越えるために子どもを利用することになります。子どもに過度の期待を寄せて子どもが不登校や自殺に追い込まれるケース、何でもない子どもを病気と称して抱え込んでしまうケースなど、少なくありません。不登校や引きこもりで悩みながら、いざ子どもの状態が改善すると、親が再び子どもが不登校や引きこもりになるよう策を弄する(もちろん自分では子どものためにやっていると思っているのですが)こともしばしばです。
病める子どもたちは、自ら選択してそうなっているわけではなく、ほんのちょっと親の関わり方が変われば、大きく生きる方向を変えることができるのです。
とは言え、親が子どもにうまく関われないのも、親自身の責任ではなく、もっとはるかに大きな力が働いてのことではあるのだろうと思いますが、めまぐるしく変わる社会の中で、まず子どもの一番身近にいる親が、自分の子育てを振り返り、子育てはどうあるべきか、そして今自分が、目の前にいる子どもにどう接したらいいのかを考えるときなのではないかと思います。
子どもの弁護士ホットライン 毎木曜日15:00~18:00
電話 048-837-8668(”ヤァみんな ハロー ローヤー(弁護士)”と覚えてください)
埼玉弁護士会の弁護士の皆さんが、子どもの皆さんからのお電話を待っていてくださいます。もちろん一切無料です。困ったときは、一人で悩まず、ぜひお電話してみてください。法律関係のことに限らず、どんなことでも相談に乗ってくださいます。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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