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2022年1月29日 (土)

【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第244回 「運転手さん、ありがとう!」

受験シーズンたけなわです。
うちのカウンセリング研究所に教育相談やカウンセリングに訪れている子どもたちも、何人かが高校受験を迎え、先週くらいから合否の報告が寄せられるようになりました。うちは塾ではないので、訪れている子のほとんどが、いじめに遭っている子であったり、不登校傾向のある子であったり、リストカットやオーバードーズ(過量服薬)の子であったりと、受験についてはご両親も本人もそれなりに不安を抱えている子どもたちです。
通常、受験勉強を見ることはしないのですが、塾に通ってはいても、勉強の仕方がかなり雑であったり、塾に行くことでかえって家庭学習への意欲がそがれていたりといった場合には、「生き方」の軌道修正のために、教育相談やカウンセリングの中に受験勉強を取り入れることもあります。けれども、それはあくまで教育相談やカウンセリングであって受験勉強ではないので、偏差値を上げることが本来の目的ではありません。心に傷を負っている子どもたちが、いかに明るく、前向きに生きていけるようになるか、そのお手伝いをしているだけです。
入試の合格が本来の目的ではないわけだから、「合否だけ」に一喜一憂することはないのだけれど、この受験を「どう乗り越えるか」ということが、その後の教育相談やカウンセリングに大きく影響を及ぼすことにもなってくるので、受験をどう感じ、どう行動し、どうなったかということが、とりわけ気になります。
入試が大きな心の重しとなって、それがうちを訪れることのきっかけになった子も少なくないので、そういうお子さんや親御さんは、無事合格することで、一山越えることもしばしばですが、そんな場合でも、「どう乗り越えるか」がその後を大きく左右することにはかわりありません。
今年の受験生ですが、何人からか合格の連絡をもらいました。本人もご両親も、無理かもしれないという不安な中での入試だったので、とても喜んでいる様子で、きっと合格したことが、今後の自信につながっていくことと思います。

さて、受験ていうのは、子どもたちにいろいろな経験をもたらします。その受験生A君の話から。
A君は学校でいじめに遭い、不登校傾向があり、本人ではなくお母さんが相談に来ています。2学期からはほとんど休むことなく学校に通えていたのですが、それまでのことや入学後の生活にも不安を抱えながら、先日高校受験に望みました。そんな不安のせいなのでしょう、受験当日、駅から学校までの道程に自信が持てず、近くにいた制服を着ている子に付いていくことにしました。ところがこれが大失敗。同じ駅を使っている別の高校の子たちに付いて行ってしまったので、気付いたときには自分が受験する学校に急いでも、間に合いそうもない。その上お金も1,000円しか持っていませんでした。
お母さんに電話をして、「どうしよう!?」ということになったらしいのですが、お母さんは「駅に戻って、タクシーを使いなさい。運転手さんに事情をよく話して、もし足りなければ、こちらの連絡先を伝えて、お金をあとで送ることにして」と指示したとか。
A君は急いで駅まで戻ってタクシーに乗り、8時50分までに学校に着かなければならない旨を運転手さんに告げました。「よっしゃ、まかせとき(関西弁ではなかっただろうけど、“き”っていう柔らかさだったんじゃないかと勝手に解釈して)。15分で行ってやる!(このときすでに8時30分でしたが45分には着く計算)」
タクシーは、本当にほぼ15分で到着。着いたときは8時46分でした。
ところが、運賃は1,080円。やはり足りない。メモ用紙に住所を書こうとしていると、「そんなことしてなくていいから、早く行きな!」
運転手さんは、80円足りない運賃を受け取り、A君を降ろしてくれたんだそうです。

う~ん、こういう人もいるんだなあ…。世の中捨てたもんじゃない。「間違えたA君が悪いんだから、しっかり指導しなきゃならん」。厳罰主義を掲げる教育再生会議の委員さんなら、そう言いそうだけれど、教育なんてそんなもんじゃあない。A君が間違えたのは、これまでのいろいろな背景があってのこと。
こういう大人の心が、将来の優しい大人を作るんだよなあと、合否とは無関係なことなのに、受験だからこそ遭遇したそんなエピソードに、A君は一回りも二回りも大きくなったことと思います。
たかが80円のことだけれど、A君は一生80円の恩を忘れないんでしょう。そして、もう一度受験をすることがあったら、今度は制服の子どもたちに付いていくなんていうことはしないんだろうと思います。
「運転手さん、ありがとう!」
とても優しい運転手さんにめぐり逢えたA君。でもこれは偶然ではなく、もしかすると受験に真っ直ぐ立ち向かおうとしているA君の姿勢が、優しい運転手さんを作ったのかもしれません。

※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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