【子育てはお好き? -専業主夫の子育て談義-】第225回「企業の倫理と親の責任」
幼児がシュレッダーに指をつっこみ、指を切断するという事故が起こったという報道がありました。シュレッダーは紙を細かく裁断する機械なので、歯と歯の隙間が狭い上、複雑な動きをするので、指が潰れてしまい、縫合することはできないとか。ということは、事故にあったお子さんは、一生指がない状態で生きていかなければならないということ? 交通事故のように、1つの事故が生死に関わるような大きな事故ではなく、周りから見ればほんの些細な事故なのに、一人の人間の人生を大きく左右してしまうような結果を招いてしまう。そんなこともあるんですよね。
一生のうちのすべての瞬間を、身体のすべてが健康な状態でいるというのは至難の業で、前にも触れたように、わが家の子どもたちも、麻耶(まや)は腎臓と血管の血液をやり取りする腎杯が半分くらい壊れてしまっていて、爆弾を抱えているような状態だし、翔(かける)は、色弱で複雑に色が混ざったものはうまく見分けがつかないので、ゴルフコースに出たとき、キャディーさんから見えないピンを狙う目標について「グリーンの奥に丸く刈り込んである赤い木が3本あるでしょ。その真ん中の木を狙えばいいですよ」と言われて、翔曰く「色なんて言われたって全然わからないから、一生懸命丸い形の木を探しちゃったよ」という具合で、おそらく紅葉なんてただの枯れた木がいっぱいに見えているんだろうなって思います。私にしても、気圧が下がると目が回るので、飛行機はもちろん、高度の高い峠道は車の運転ですら気をつけないと目が回って危険な状態。海外に出るなんて、船で行くしかないので、韓国、中国を除けば、夢のまた夢。旅費も半端じゃなくかかるし、なかなか長期で休みを取るなんていうことは難しいし、いつになったらいけることやら…。
わが家の子どもたちや私が背負っているハンデに比べたら、指がないというハンデは、もっと根源的に“生活する”ということに直接関わる大きなハンデなので、とても気の毒に思うけれど、しっかりとそれを受け止めて、明るく生きていってほしいと願うばかりです。
今回のシュレッダーの事故の報道を見ていると、企業の責任が大きく取り上げられています。雪印や三菱自動車などから露見した企業倫理の欠如は、とどまる気配もなく、最近ではトヨタ自動車のリコール隠しが明らかになったり、パロマ工業製湯沸かし器の欠陥から死亡事故が起こったり、ついには行政のずさんなプール管理までが明るみに出て、われわれのものつくりや安全管理に対する信頼はずたずたになっています。けれども私は、今回のシュレッダーによる事故を、こうした企業や行政の倫理の欠如と単純に同一化して考えることは、間違いだと思います。
製造メーカーとして、どのようにしてものを作るかと考えた場合、より安全性の高いものを作るというのは、当然のことです。しかし、ものを作る側は、ものを使う側の要求にどう応えるかということも重要な要素なので、シュレッダーのようなものでは、安全性を取って挿入口を狭くするか、大量な紙を一度に処理できるよう挿入口を広くするかとか、安全性という付加価値を追求して高く売るか、付加価値は必要最低限に抑えて安く売るかとか、そういった点で何を選択するかは、まず企業が経営戦略的に選ぶものであって、その後に消費者がどんな製品を選ぶかという問題であると思います。
今回事故が発覚したシュレッダーは、事務機器メーカーのものだそうですが、家電メーカーの製造したシュレッダーは、もう少し安全性が高かったとも聞きました。私も小さな手回しのシュレッダーは時々使いますが、それほど危険を感じたことはありません。メーカーが、幼児が触るということを想定していなかったのは、落ち度と言えなくもありませんが、もともと私たちの意識の中にもシュレッダーを幼児の触るところに置くという意識はない。その辺のところは、子どもがいるとすれば、利用者の注意義務の範囲内ではないか…。
もちろんメーカーには、より高い安全性を求めます。けれども私は、子育てをしてきた者として、それを利用する親たちには、さらに高い安全管理を求めます。
パチンコ店の従業員が、炎天下の駐車場に止めてある車の中に乳幼児が置き去りにされていないか見回っているところが報道されました。店側にすれば、自分の店の駐車場で、子どもが死亡したということにでもなれば、相当なイメージダウンになりますから、当然といえば当然ですが、もともと炎天下の車の中に子どもを置き去りにするということが当然ではないのです。
私が子どもを育てていたころは、まず子どもの手が届く範囲の観葉植物をどかしました。土が見えないように飾ってあった石を子どもが飲み込んでしまう可能性があったからです。子どもが簡単にコンセントの近くに行けないよう、家具でコンセントの周りを囲んだり、余計なものはコンセントに差さないようにしました。家庭の中にも危険はたくさんあるのです。包丁、アイロン、針、はさみ…。大人がなんでもなく使っている箸やフォーク、ボールペンや鉛筆も、とても危険です。とは言え、まさか切れない包丁や熱くならないアイロンを作るわけにはいかない。
仕事の形態の変化により、家庭の中にどんどん仕事が入り込んできています。当然、子どもにとっては危険が増しているわけで、親にとってはより多くの注意が必要になってきています。ほんのちょっとの気配り、それが子どもを守るのです。メーカーの安全対策もさることながら、メーカーにだけ責任を押しつけるのではなく、私たち親も、もっと子どもの安全に対する認識を高め、負わなくてもいい負担を子どもに負わせないよう、できる限りの注意を払う必要があるのではないでしょうか。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、地域情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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