【子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー】第183回「駄菓子屋横町 その2」
交番で教えてもらった通りに歩いていくと、“ありました! ありました!”確かに駄菓子屋です。ビルの外まではみ出すように昔ながらの駄菓子が並べられています。
「とりあえず3軒とも覗いてみようかな?」
2階にも上がって、所狭しと並べてある駄菓子の山を一通り全部眺めました。
チョコ、ガム、ラムネ、酢イカ、アンズ…。見る物すべてが懐かしく、
「ああ、そうそう! こんなのあったなあ!」「これも食べた、食べた!」
見ているうちに、どんどん自分が子どもに返っていくような感覚に襲われます。
いくつか候補をあげて、お店のお兄さんに値段を聞いてみました。とにかく種類が多いので選ぶのには一苦労なのですが、手に取る物はどうしても自分が懐かしく思うものばかりになってしまいます。
「最近の子は、どんなものを好んで食べるんだろう?」
と頭の中では考えているのに、気づいてみると手に提げている店内用のかごの中は、自分が昔好きだったもので埋まっています。
「いやいや、これじゃあダメだ!」と自分に言い聞かせながら、
「おにいさん、最近人気があるものってどれですか?」
「そうだねぇ、これなんかよく売れるよ」
おにいさんはそう言いながら、いくつか選んでくれました。
「くじだったらこれなんか良く出るよ。ほら、男の子はこれ。昆虫のでどうだい? まだテレビの影響で昆虫物でいいと思うよ。女の子はこれなんてどう? 一回50円。この昆虫のは80個付いてるから、売値で4000円が3000円だよ。全部売れれば1000円儲かるよ」
「くじってそんなにするの? 全部で予算が7000円くらいなんだよ。くじ2つで6000円いっちゃうと他のものが買えなくなっちゃう。1日限りだから売れ残ると困っちゃうんだよね」
「大丈夫だよ。売れちゃうよ。この昆虫のくじなんて、すごい人気なんだから。くじ以外のものは、そうたいした値段じゃないよ。あと2、3000円あればいいんじゃないの」
おにいさんの言葉につられて、男の用のくじと女の子用のくじ(私は男の子、女の子という区別や差別をしないので、久しぶりに聞いた言葉の響きでした)をとりあえず買い、その他50個、100個くらい入って、1000円でおつりがくるようなチョコやイカなどを買いました。
「以前あった横町に行こうとしたら、分厚い鉄板で覆われて工事してたので、全部なくなっちゃったのかと思いました。交番で聞いてきたんですよ。何かイベントがあると仕入れにきてたんですけどね」
「もうここのビルに入ってる3軒だけになっちゃったんだよ。多いときは150軒くらいあったからね」
そこの店主らしいおばさんが答えてくれました。こういうお店っていうのは不思議なことにどうやら夫婦らしいおじさんとおばさんがやっていて、おじさんも近くにいるんですが、まず話をするのはおばさん。そして、おばさんと話をしていると、「うん、そうなんだよね」とか「懐かしいだろっ」とか合図地を打ったり、かけ声かけたりして、ちょっとだけおじさんが登場する。あれはどういうわけなんだろっ? ここもその例外ではなく、おじさんはちょっと奥の方からにこにことこっちを見ながら合図地を打っています。
「祖母が菓子屋をやっていたので、子どものころ、祖母の仕入れに何度かついてきたんですよ。そうすると帰りに必ずおもちゃを一つ買ってくれて、それが楽しみでね」
「おばあさん、なんていう名前?」
「大澤っていうんですけど」
「大澤さんねぇ。あそこの横町に仕入れにきてた人はね、みんな知ってるんだよ。どこの店のお客さんだかまでみんな知ってるんだ。そういうところだったんだよ」
「そうですかぁ。でも、もう祖母が亡くなって15年くらいになるし、祖母が仕入れにきてたのは、45年くらい前の話ですから」
「わかるかもしれないよ。おばあさんの写真あるだろっ? 今度来るとき、持ってきて見せてよ。顔見ればきっとわかると思うんだ」
毎日フェスタをやっているわけじゃないから、次はいつくるかわからないんだけどと思いながら、
「そうですね。じゃあ今度くるとき、持ってきてみますよ」
結局、仕入れは予算をはるかにオーバーして12,000円ほどになりました。そしてフェスタ当日、訪れた子どもの数はほんのわずか。同じ子が何度もくじをひくというパターンでくじはほとんど売れたものの、駄菓子類は大半が売れ残ってしまいました。
「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…。私だったら、絶対買いたいのに…」
また一つ子どもと大人が交わることのできる大切な場所の灯が消えたような気がしました。
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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