【子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー】第169回「未知のものの恐怖」
「あいつ泳げないんじゃないの?」
「? とんでもないでよ、すごく達者ですよ」
「そうかい?」
「どこまででも泳いで行っちゃいますよ」
「? だってあいつはねえ、4つのとき鎌倉の海水浴場に連れて行ったら、海の家から一歩も外に出られないんだよ」
「全然海に入れないんですか?」
「違うよ。海に入れないんじゃなくて、海の家から砂浜に降りられないんだよ」
「…」
「わかる? 砂の上に足がおろせないの。結局、海の家から全然出ないで帰ってきたんだから」
「それって、かなりすごいですねえ!」
「そうだよ。直隆(なおたか)って、そういう子だったんだよ」
「臆病っていうか、用心深いっていうか…。じゃあ、うちの子どもたちが、波が怖くて海に入れないのも仕方ないですね」
「そうだろうね。海に入れないっていうだけなら、直隆よりはずっとましだよ」
「はあ…」
「本当にあいつが潜ってサザエを採ったのかい? 200個も?」
「そうですよ、お母さん。すごくうまいんですよ」
「どうも信じられないねえ」
「採ったやつを岩で潰して、その場で食べたんですよ。5、6個食べてあとはみんなにがしてやったんですけどね。セリとか山菜とかを摘んだり、何かを捕まえたりとかするの、とってもうまいし、そういうの好きみたいですね。だから、山の中をどんどん歩いたり、泳いだり、そういうこと得意ですよ。クマとかサメに出会っても平気そうです」
「おかしいねえ、あんなに臆病だったのに…」
「きっと未知のものには、用心深いんですよ。すごく神経質ですしね」
「? とんでもないでよ、すごく達者ですよ」
「そうかい?」
「どこまででも泳いで行っちゃいますよ」
「? だってあいつはねえ、4つのとき鎌倉の海水浴場に連れて行ったら、海の家から一歩も外に出られないんだよ」
「全然海に入れないんですか?」
「違うよ。海に入れないんじゃなくて、海の家から砂浜に降りられないんだよ」
「…」
「わかる? 砂の上に足がおろせないの。結局、海の家から全然出ないで帰ってきたんだから」
「それって、かなりすごいですねえ!」
「そうだよ。直隆(なおたか)って、そういう子だったんだよ」
「臆病っていうか、用心深いっていうか…。じゃあ、うちの子どもたちが、波が怖くて海に入れないのも仕方ないですね」
「そうだろうね。海に入れないっていうだけなら、直隆よりはずっとましだよ」
「はあ…」
「本当にあいつが潜ってサザエを採ったのかい? 200個も?」
「そうですよ、お母さん。すごくうまいんですよ」
「どうも信じられないねえ」
「採ったやつを岩で潰して、その場で食べたんですよ。5、6個食べてあとはみんなにがしてやったんですけどね。セリとか山菜とかを摘んだり、何かを捕まえたりとかするの、とってもうまいし、そういうの好きみたいですね。だから、山の中をどんどん歩いたり、泳いだり、そういうこと得意ですよ。クマとかサメに出会っても平気そうです」
「おかしいねえ、あんなに臆病だったのに…」
「きっと未知のものには、用心深いんですよ。すごく神経質ですしね」
「蓮(れん)くん、沙羅(さら)ちゃん、ホタル見に行こうか?」
「うん、行く!」
10年ほど前、新聞の一面にホタルが乱舞している写真が載ったことがありました。ここ数年は、ホタルの保護に力を入れているところが増え、一時に比べいろいろなところでホタルが見られるようになりましたが、そのころは今ほどホタルブームではなく、ホタルが乱舞するほど見られるところは限られていました。新聞に載ったのは、長野県の辰野という町で、毎年ホタル祭りを大々的に開催しています。新聞に載った乱舞のすごさに、すぐさま辰野に出かけることにしました。私と妻の仕事が済んでから出かけたので、辰野に着いたのは12時ごろ。ホタルが最も乱舞するのは、8時前後とのことなので時間的にはやや遅い時間(土地の人の話では、9時くらいにいったん飛ばなくなって、遅くなってからまた飛び出すという人もいるのですが)だったのですが、そのとき見たホタルはまるでプラネタリウムの星のよう。
孫にもそんなホタルが見せてやりたくて、ホタル狩りに行くことにしました。ただし、辰野はあまりにも遠いので、塩原にしました。
何となくどんよりとして蒸し暑い、絶好(?)のホタル日和と思って出かけたのですが、ちょうど塩原に着いたときに雨がパラパラと降り出しました。以前に心ない人がいたとかで、HP等には場所を公開していないので、電話をかけたり、交番で聞いたりと、やっとそれらしきところに着いたのですが、全然ホタルはいません。
「やっぱり、辰野みたいじゃないねえ。雨も降ってきちゃったし、ダメかなあ…。せっかくここまで来たんだから、ちょっとでいいから見せてやりたいよねえ」
そんなことを言っていると、10mくらい先を、星が流れるようにスーッとホタルが1匹飛びました。
「いたーっ! ほら、蓮くん、沙羅ちゃん、あれがホタルだよ」
蓮と沙羅を車の外に出すと、蓮は私に、沙羅はおばあちゃん(妻)にしがみついて、べそをかいています。
「ほらっ、あそこにも飛んでる! あそこにも。ほらほらほら!」
蓮も沙羅もホタルどころではなく、しっかりとしがみついたままホタルを見ようとしません。ホタルを保護している場所というのは、真っ暗です。目が慣れるまでは、足元を見ても、どこが道だか全くわかりません。漆黒の闇、まさにそんな形容がぴったりのようなところです。てっきりその暗さを怖がっているのかと思っていたら、どうやらそうではなくて、蓮と沙羅が怖がっていたのは、カエルの鳴き声でした。
真っ暗でよくわからないのですが、辺りは田んぼが広がっているようです。確かにすごいカエルの鳴き声で、怖がるのも当然といえば当然。私と妻はその騒音のような音がカエルの鳴き声で、カエルが頬をふくらまして鳴いていることも知っています。けれども蓮と沙羅にとっては初体験です。。
「あれはね、カエルさんの鳴き声だよ。蓮くん、カエルさん知ってるよねえ?」
「うん」
返事はか細く、とても恐怖が治まった様子ではありません。
「カエルのうたが~ きこえてくるよ~ グヮグヮグヮグヮ ゲゲゲゲゲゲゲゲ グヮグヮグヮ~」
その騒音のような音がカエルの鳴き声とわかり、ほんの少しだけ落ち着いたようでしたが、「じいちゃん、車に入ろう。もうお家帰る!」
おいおい、わざわざ塩原までホタルを見に来たんだよ。そう簡単には帰れないだろうが…。もっとしっかりホタルを見てくれよ!
遠くを飛ぶホタルの光とまるで騒音のようなカエルの声。本では見たことはあっても、いったいそれがどんな生き物なのか、蓮と沙羅はまだその実態を知りません。
「うん、行く!」
10年ほど前、新聞の一面にホタルが乱舞している写真が載ったことがありました。ここ数年は、ホタルの保護に力を入れているところが増え、一時に比べいろいろなところでホタルが見られるようになりましたが、そのころは今ほどホタルブームではなく、ホタルが乱舞するほど見られるところは限られていました。新聞に載ったのは、長野県の辰野という町で、毎年ホタル祭りを大々的に開催しています。新聞に載った乱舞のすごさに、すぐさま辰野に出かけることにしました。私と妻の仕事が済んでから出かけたので、辰野に着いたのは12時ごろ。ホタルが最も乱舞するのは、8時前後とのことなので時間的にはやや遅い時間(土地の人の話では、9時くらいにいったん飛ばなくなって、遅くなってからまた飛び出すという人もいるのですが)だったのですが、そのとき見たホタルはまるでプラネタリウムの星のよう。
孫にもそんなホタルが見せてやりたくて、ホタル狩りに行くことにしました。ただし、辰野はあまりにも遠いので、塩原にしました。
何となくどんよりとして蒸し暑い、絶好(?)のホタル日和と思って出かけたのですが、ちょうど塩原に着いたときに雨がパラパラと降り出しました。以前に心ない人がいたとかで、HP等には場所を公開していないので、電話をかけたり、交番で聞いたりと、やっとそれらしきところに着いたのですが、全然ホタルはいません。
「やっぱり、辰野みたいじゃないねえ。雨も降ってきちゃったし、ダメかなあ…。せっかくここまで来たんだから、ちょっとでいいから見せてやりたいよねえ」
そんなことを言っていると、10mくらい先を、星が流れるようにスーッとホタルが1匹飛びました。
「いたーっ! ほら、蓮くん、沙羅ちゃん、あれがホタルだよ」
蓮と沙羅を車の外に出すと、蓮は私に、沙羅はおばあちゃん(妻)にしがみついて、べそをかいています。
「ほらっ、あそこにも飛んでる! あそこにも。ほらほらほら!」
蓮も沙羅もホタルどころではなく、しっかりとしがみついたままホタルを見ようとしません。ホタルを保護している場所というのは、真っ暗です。目が慣れるまでは、足元を見ても、どこが道だか全くわかりません。漆黒の闇、まさにそんな形容がぴったりのようなところです。てっきりその暗さを怖がっているのかと思っていたら、どうやらそうではなくて、蓮と沙羅が怖がっていたのは、カエルの鳴き声でした。
真っ暗でよくわからないのですが、辺りは田んぼが広がっているようです。確かにすごいカエルの鳴き声で、怖がるのも当然といえば当然。私と妻はその騒音のような音がカエルの鳴き声で、カエルが頬をふくらまして鳴いていることも知っています。けれども蓮と沙羅にとっては初体験です。。
「あれはね、カエルさんの鳴き声だよ。蓮くん、カエルさん知ってるよねえ?」
「うん」
返事はか細く、とても恐怖が治まった様子ではありません。
「カエルのうたが~ きこえてくるよ~ グヮグヮグヮグヮ ゲゲゲゲゲゲゲゲ グヮグヮグヮ~」
その騒音のような音がカエルの鳴き声とわかり、ほんの少しだけ落ち着いたようでしたが、「じいちゃん、車に入ろう。もうお家帰る!」
おいおい、わざわざ塩原までホタルを見に来たんだよ。そう簡単には帰れないだろうが…。もっとしっかりホタルを見てくれよ!
遠くを飛ぶホタルの光とまるで騒音のようなカエルの声。本では見たことはあっても、いったいそれがどんな生き物なのか、蓮と沙羅はまだその実態を知りません。
つづく
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。
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