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2020年2月 9日 (日)

第170回「未知のものの恐怖 その2」

「カエルさんの声は聞こえるけど、真っ暗で見えないねえ」
「うん」
「カエルさんって、ゲロゲロって鳴くんだよね」
「うん」
「たくさん鳴いてるね」
「うん。うるさい」
「蓮くんと沙羅ちゃんは、カエルさん触れるんだっけ?」
「うん。触れるよ」
蓮はもちろん、沙羅も返事をしました。
カエルを身近に見たことすらないのだから、触ったことなどあるはずがないのに、グッと恐怖心を押さえて、蓮は私に強がって見せたのです。蓮も沙羅も水族館のようなところで水槽に入ったとても珍しい貴重なカエルは見たことがありましたが、田んぼで鳴いているカエルというのは、見たことがありません。にもかかわらず、田んぼで鳴いているカエルという存在は、小さな蓮や沙羅にもポピュラーなようで、
「今度、カエルさん捕まえに行ってみようか?」
と私が蓮に尋ねると、
「う~ん」
蓮は、肯定とも否定ともつかない微妙な返事をしました。
- 数日後 -
「蓮くん、これからカエル捕まえに行こうか?」
「うん」
今日ははっきりと返事をしました。
「沙羅ちゃんもぉ」
怖がって「行かない」と言い出すのではないかと思っていたのですが、やけに威勢のいい返事。私と蓮と沙羅の3人でカエルを捕まえに行くことになりました。近くに田んぼがなくなってしまったので、車で20分ほど走り、やっとカエルがいそうな田んぼにたどり着きました。
「カエルさん、いるかなあ?」
3人で畦道を歩くと、カエルが草の中から田んぼの水の中へ飛び込みます。おたまじゃくしのしっぽがやっと取れたばかりの小さなカエルは、よく見ないと見逃してしまうくらいの大きさです。最初のうちは、その存在に気づかなかった蓮と沙羅は、私の後ろについてきていましたが、その存在に気づいてしまった瞬間に、2人の足はピタッと止まりました。「じいちゃん、手つなごう」
蓮は言います。沙羅は一歩も足を前に出せなくなり、立ち止まったままべそをかき始めました。
「蓮くん、カエルさんいるねえ。ほらっ、おじいちゃんについておいで」
私は沙羅と手をつなぎました。蓮は強がっていた手前、とりあえず1人で踏ん張っています。
「蓮くん、カエル捕まえられる?」
「うううん。捕まえられない」
「この間、触れるって言ってたけど、怖いの?」
「怖いの。だってカエルさん噛みつくでしょ?」
やっと本心を私に告げた蓮はちょっと気が楽になったようでした。
「大丈夫。カエルさんは噛みつかないよ。じゃあ、じいちゃんが捕まえてあげるから、そこでじっとしててね。蓮くんと沙羅ちゃんが動くと、カエルさん逃げちゃうからね」
5匹ほどカエルを捕まえて、ビニール袋に入れました。ビニールの中にいるカエルは、蓮と沙羅をおそわないということを2人もわかっているらしく、2人ともじっと観察しています。カエルに対して自分が優位に立っているということを悟った蓮は、さっきまでカエルを怖がっていたのが嘘のように、今度はカエルの入ったビニール袋を持ちたがりました。
畦道を車の方に向かおうとすると、また沙羅が動きません。ほんの5㎝か10㎝の草が怖いのです。草の中に何が潜んでいるかわからない恐怖は、沙羅にとっては相当なもののようで、私がかなり強い調子で促すまで、全然動かなくなってしまいました。
家に帰って、金魚の水槽にカエルを放すと、水草の陰に隠れたり、ガラスにへばりついたり。蓮も沙羅もカエルというものがどういうものかを知り、恐怖心も和らいだようで、3日間ほど水槽の中で飼ったあと、近くの川に逃がしてやりました。
「あのカエルさん、あんよの指が一つなかったんだよ。かわいそうだねえ」
充分に観察をしたらしく、すっかりカエルは、蓮と沙羅の身近なものになりました。
「今年もサザエ、たくさんいるかねえ? 去年は少なかったような気がするよ。潜ってもあんまりたくさんは見つからなかった」
「潮の関係もあるんだろうけど、だんだん減らなければいいけどね。まだお母さんは、あなたが泳げるっていうの、半信半疑みたいだね。波が怖くて、砂浜に降りられないっていうんじゃ、無理もないけど」
「なんだかわからないものが怖くないっていう方がおかしいんだよ。未知のものを怖がらずに何でも平気っていうのは、乱暴なだけだよ。少しずつ確かめて、恐怖心を克服していく、そういうことが子どもにとっては重要だと思うけど。それが本来の強さだよ」
「なんとか言っちゃって! 波が怖くて海の家から一歩も出られなかったっていうあなたは、極端なんだよ」
「まあ、そうかも。でも今は、サザエ採れるんだからいいでしょ!」
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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