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2019年11月 3日 (日)

第115回「“励ます”“ほめる”」

 私の会社のある「エイペックスタワー浦和」に商店会ができ、私は広報部を担当することになりました。長い長いPTA役員の経験の中で、一度だけとはいえ広報部を経験したことがあるので、広報誌の作り方はおおよそわかります。当時の広報誌を書類の山の中から引っ張り出し、1ページあたりの段数や1段あたりの字数と行数を数えて、とりあえずその体裁に倣ったニュースを作ることにしました。
PTA広報誌は、どちらかというと内部向け。ところが商店会のニュースとなると逆に外部向け。PTAなら新入生の学年を除いて組織自体はわかっているわけだけれど、商店会となるとPTAより任意性が強く、エイペックスタワーのすべての商店、事務所が入会しているわけではありません。創刊号ではまず、すべての会員の紹介から始めることにして、全会員から原稿をもらうことにしました。

 いやいや、これが大変。会員数は30弱。たいしたことないって思ったのが間違いの始まりで、PTAのように“学校”というとてつもなく強い存在の上に成り立っているのではないので、PTAでの原稿依頼よりはどうしても引き気味になっちゃう。店舗名を含めて15字・8行。 本文はたったの6行・90字しかない原稿なのに、
「すみません、商店会の広報部なんですがあ、これほんのちょっとでいいんですけど、原稿お願いできますか? あのそんなに難しいことじゃなくていいんで、申し訳ないんですけど、2週間後の金曜日までっていうことで、よろしいでしょうか?」
なあんて、すっかり嫌なことのお願いモード。考えてみれば、商店会の会費以外無料で、しかもこちらはボランティアで宣伝をしてあげようというわけだから、何もこっちがへりくだる必要はないのに“なんでだろう???”何て考えながら、学校という組織の化け物ぶりを痛感するのでした。
 結局、原稿が全部揃ったのは予定より1ヶ月遅れ。“5月末には印刷屋さんに入稿して遅くとも6月10には発行”なんていうつもりでいたのにとんでもない。「6月に発行」ということで総会を通っているので、何が何でも6月末までにはなんとかしないと…。とりあえず、ニュースに刷り込む日付だけは6月30日にして、つじつま合わせ(トホホッ)。

 いつもウチの会社でお願いしている印刷屋さんに無理を言って、なんとか急いで上げてもらうことに(ウチが出す印刷物は急がないであげてもらったことなんてないんだけどね)。原稿を取りに来てもらうなんていうことはとても頼めるような状況にないので、私が届けに行きました。なんとか打ち合わせをして、校正はFAXでやれば、ぎりぎり30日には上がるかなあ?なんていう感じで、ひとまず“ホッ!”

 印刷屋さんの帰りがけにそこの社長が本棚から数冊の本を出してきて、
「これ参考に読む?」
と本をくれました。
 坂本光男氏(もうけっこうご高齢ですけど、さいたま市在住で教員歴の長い方なのでご存じの方もいらっしゃると思いますが)の本だったんですが、私にいわせると、“もういったい何を言ってるの!”レベル。
「いま親と教師は子どもをもっと励ましてやらなければなりません」というまえがきで始まるこの本は、子どもを「励ますことば」の例をたくさん挙げています。「励ます」こと自体を悪いとは思わないけれど、ここに挙がっている例は、「いろいろ大変なこともあったけど、生んでよかった(母)。やっぱり育ててよかった(父)」「頭が悪いんじゃないよ。時間をかければできる。あきらめずに、くり返し覚えることをしっかりやるといいよ」「まじめに一生けんめい働いているおとなが、いっぱいいるんだよ。その人の方がはるかに多い。暗い部分だけでなく、明るい方をよく見てすすもう」「これができると大きくなっても役にたつよ。さあ、やってみよう。いますぐ無理なら、いつからならやれる?」「いっぱい食べたね。きっと、じょうぶで元気な子になれるよ。またおいしいものをいっぱいつくってあげるからね」等々。
 まず大人が子どもを常に見下しているし、しかもよく内容を考えてみると、大人を“いい大人”と“悪い大人”とに分けて、さらにそこに差別的な見方まで加えている。これじゃあ、励ましているんじゃなくて、単なるお説教でしかない。

 もちろん、“励ます”“ほめる”が子育ての一つの要素であっていいとは思うけれど、“励ます”にも“ほめる”にも、価値観の押しつけが内包されているということを忘れないようにしないとね。私は、“励ます”“ほめる”より、“共感”の方がいいと思う。嬉しいことは一緒に喜ぶ、悲しいことは一緒に悲しむ。そして、時に価値観のぶつかり合いがあるときには、“怒る”っていうことになる。
 小さいうちはある程度しかたがないけれど、ある年齢に達したら、”頭ごなしに怒られた”という感覚よりは“意見がぶつかり合った”って感じられるような関係作り方も重要なんじゃないかな。


**6月28日(月)掲載**

※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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