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2019年11月 7日 (木)

【「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」第131回】「幼稚園決定!!」

蓮(れん)を入園させる幼稚園で悩んでいた麻耶(まや)。
「私が出た幼稚園てさあ、そんなに悪い幼稚園じゃなかったよねえ?」
「そうだね。この辺の幼稚園を全部見て回って決めたからね。大きく分けると2つに別れるでしょ。一方はやたらと幼児教育に熱心で、部屋からほとんど出ないで読み書きとか英会話とかばっかりやらせてる幼稚園。もう一方は昔風のっていうか、男の子・女の子っていうみたいなしつけにこだわってるような古い感覚の幼稚園。麻耶が通ってた幼稚園はその中間くらいかな?」
「ああああ、なんかわかる」
「園庭の広さとか、遊具の種類とか、子どもたちの様子とかを見て決めたんだけど、まあまあだったかな。主任の先生が園長先生のお嬢さんでまだ若かったからけっこう柔軟で、保護者の意見も取り入れようっていう感覚があったからね。まあ、それが逆に自信のなさに繋がって変なことになっちゃうこともあったけど」
「なるほどね」
「ただ給食のことにはかたくなで、とにかく残さないで食べるように指導してたよ。全部食べないとシールがもらえないの」
「ああ、覚えてる」
「おまえはレバーを無理やり食べさせらた」
「そうそう。涙流しながら吐いちゃったんだ」
「覚えてるんだ?」
「うん。相当嫌だったんだろうね。でもそれ以外は嫌なことなかったよ。楽しかったことは記憶にあるけど、嫌だったことは全然記憶にないもん。翔(かける)の通ってたところもいいとは思うんだけど、毎日お弁当だし、延長ないし…。ちょっと用事で遅くなるっていうのもできないしなあ」
「あそこは間違いないよ。園長先生の教育に対する理念ははっきりしてるし、子どもたちも伸び伸びしてる。まあ欠点を言えば、ちょっと教育に対する理念を親に押しつけすぎるかな。その理念を信頼して入れてるわけだから仕方ないけどね」
「なるほどねえ。明日ね、説明会があるんだよ。あたしが行ってた幼稚園の願書もらってこようかなって思ってるんだ」
「おまえ、あそこに入れるの? 私は翔の行ってたところに入れてほしいけどなあ…」
「まだわかんないよ。だからそっちも見てくる」
妻と麻耶はそんな会話をしていました。

「麻耶はやっぱり自分の行ってたところがいいみたいよ」
「そりゃあそうでしょ。自分の行ってた幼稚園を悪くは思いたくないし、実際そんなに悪い幼稚園でもなかったし」
「でもねえ、やっぱり幼稚園の姿勢が気に入らなくて翔を途中でやめさせたわけだから」
「まあそうだけど、いくつかの部分で妥協すればね。どこの幼稚園にも問題がないわけじゃないから」
「“パパには相談した?”って聞いたら、“麻耶が決めればいいって言うだけだもん”て言われちゃったよ」
「まあそういうことだね」

蓮はまず麻耶の出た幼稚園に連れて行かれました。3歳児のクラスはすでにいっぱいでしたが、“ここの卒園生なんですけど、息子を入園させたくて”と言うと、とりあえず願書はもらうことができました。
受付で、
「お名前は?」
の問いに蓮は何も答えることができません。
「あれっ? お名前言えないの? お名前言えないと幼稚園に入れないよ」
いきなりこの言葉。その後の園長先生(麻耶が通っていたころの主任)のお話は、“幼稚園は厳しいところ、怖いところって教えないでください。楽しいところ、行きたいところとお話ししてください”。父母の会の会長さんのお話は“ここの幼稚園を出たお子さんは、小学校に行っても何も困ることのない、しっかりとしたお子さんになれます”。受付での対応と園長先生のお話、会長さんのお話、それぞれのギャップを感じながら、翔の出た幼稚園へ。
こちらの園では、年少・年中の子どもたちが園の中をウロウロ。中にはモップを振り回してる子までいて。

「園長先生がそばに立ってるのに、モップ振り回してる子全然注意しないんだよ。危ないっちゅうの。あそこまで徹底してるのってすごいよね。とにかく怒らない。でも、奥の方の部屋の子たちはちゃんと席について静かだったよ。あれ年長さんたちの部屋だよね。あんなにウロウロしてる子たちが年長になるとああなるんだよねえ。それがすごいよね」

この問題にけりをつけたのは蓮自身でした。
「蓮くん、かっくん(翔のこと)の行ってた幼稚園に行く」
それまでそんなことを一度も言ったことのない蓮が、突然そう言いました。受付の先生の対応にちょっと腹を立てていた麻耶も、
「よくわかったよ。ありゃあダメだ、ダメ。やっぱり翔のところだね」
どうやら麻耶は、毎朝お弁当を作る決心をしたようです。

**10月18日(月)掲載**

※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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