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2019年4月26日 (金)

第98回「ボランティアの質」

「笠原ー! なにやってんだあ!」
「ばっかか、おめえ! ほらほらっ、こっちに走れって言ってんのっ!」
「やめちまえ! おまえ才能ないよ!」
「ほらほらほらほらあっ! ここあいてんだろっ! おまえが入るんだよ、ほらっ! スッとくる、スッとおっ! のろまっ! もう、相手が詰めてきちゃっただろっ! ぐずっ! おせえって言ってんだよっ!」

グランドに罵声が飛びます。
サッカー部の練習試合、顧問の林田先生がベンチに座っているにもかかわらず、その頭上を指示の声が飛びます。

「あれ、誰?」
「宇田川さんだよ。少年団の監督やってる人」
「ああ、なるほど」
「お子さんが、今試合に出てるよ。ほら、あの子」
「一応、保護者っていうわけね」
「だけどあれじゃあ、まるでコーチか監督じゃん!」
「まあね。なんか今度外部コーチになるっていう話もあるみたいよ。林田先生がけっこう忙しいでしょ。だから校長が普段の練習も含めて宇田川さんにお願いしようとしてるみたいよ。でも、お子さんいるからねえ…。それにあの怒声でしょ。ちょっとねえ…」

しばらくすると林田先生から、
「よーしっ! 笠原、そうだ! 行け行けっ!」
と声がかかります。
笠原君は保護者の席にいる宇田川さんの方に目をやり、そしてベンチの林田先生の方に目をやると走り出しました。
一瞬躊躇した分、スタートが遅れボールを敵に奪われます。
「なにやってんだっ!」と林田先生の怒鳴り声。続いて、宇田川さんから、
「おまえは”ぐず”なんだよ!」
笠原君は林田先生と宇田川さんの顔を交互にのぞき込みました。

試合が終わると子どもたちは林田先生のところに集まり話を聞いています。そしてその話が終わると誰がどうというわけでもなく、なんとなくずるずると子どもたちは宇田川さんのところに集まり、話を聞き始めます。
「ありがとうございました!」
子どもたちがお礼を言い散っていくと宇田川さんはタバコを吸い始め、そしてU字溝のふたの隙間からタバコの吸い殻落とすと、学校のグランドから出て行きました。

数日後、偶然林田先生と職員室前の廊下で顔を合わせました。
「宇田川さん、まずくないですかねえ? 子どもたちも迷っちゃってるし…」
「…」
「先生から話をしてもらって、ああいうやり方やめてもらうわけにはいかないんですか? 他のお母さんたちも自分の子どもがすごい勢いで怒鳴られるので、あんまり気分よくないみたいだし…」
「私が頼んだわけじゃないですから。勝手にやってるんだから保護者の中で解決して下さいよ」
「そういう言い方なさるんですか? 実際にああやって先生の頭を飛び越えて指導してるわけだから、先生だってやりにくいじゃないですか。われわれ保護者の立場からすれば、自分と同じ立場の人間が自分の子どもを怒鳴るわけだから納得いかない部分もあるし。私は宇田川さんが指導者をしている少年団に子どもを入団させたんじゃなくて、ここの中学校のサッカー部に入部させたんですよ。学校の指導下で起こってることに対してはこうして先生には意見を言える。けれども宇田川さんは何の責任も義務もないわけだから、意見が言えないじゃないですか」
「だから私が頼んだわけじゃないので、お父さん同士で解決してくださいって言ってるんですよ」
「先生はあれでいいと思ってるんですか? 学校の指導下なんですよ。しかも宇田川さんは父親として子どもたちを励ましてるんじゃない。まるでコーチとして指導してるじゃないですか。私は宇田川さんに子どもを預けた覚えはない!」
「私にはどうにもできませんね。保護者の間で解決してください。あんまりゴチャゴチャするんだったら私、顧問降りますから」
林田先生は職員室に入っていきました。

つづく

**2003年2月23日(月)掲載**

 

※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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