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2019年4月26日 (金)

第99回 「ボランティアの質 その2」

ある日の校長室。
「ところで校長先生、部活のことなんですけどね。この前、林田先生に、“宇田川さんの子どもたちに対する声のかけ方があんまりひどいので、学校の管理下としての部活動でやってるわけだから、コーチか監督みたいな振る舞いをさせるのはまずいんじゃないですか”って話したんですよ。そうしたら、“私が頼んだわけじゃないから自分たちで解決してください”って言われちゃって。だけど、ウチの子に聞いてみたら、日曜日なんかは宇田川さんのお子さんが部員を招集して宇田川さんがサッカー部の子どもたちを指導してるって言うし、お母さんたちの話では学校からの要請で宇田川さんが正式に外部コーチになるっていう話を聞いたんですけどね…。それって本当なんですか?」
「ああ、その件ね。確かに打診はしてますよ。林田先生が進路の担当で夏休み明けくらいからは忙しくなるから、あんまり部活の面倒を見られなくなるんですよ。ウチみたいな小規模校だとどうしても教員一人でいくつもの役割を果たさなくちゃならないもんだから、部活の部分を外部の方にお願いしようっていうことで…」

「事情はよくわかっていますから、それはそれでいいんですけれど…。ただね、どういう方をどういう形でお願いするのかっていうことに対して、きちっとしたものが必要だと思うんです。現段階では、部活動は課外活動として全員加入で、内申書の評価の対象にもなってるわけだから、そういう意味では指導する側も学校の管理下におかれていないといけないと思うんですよ。地域の方の力を活用するっていうのもわからなくはないんだけれど、ボランティアっていうのはある意味、危険でしょ。今回の件みたいに個人が中学校の部活動の生徒を勝手に集めちゃったりして、“無責任”っていうことにもなりかねない。学校外のクラブチームみたいなものならともかく、全員が加入しなくてはならない中学校の部活動で、しかも小規模校が故に部活の種類が少なくて、ほとんど選ぶことができないような状況下では、指導する側の公人としての立場も強く意識してもらわないとね。積極的にやりたい子ばかりではないわけだから。いくらボランティアとはいえ、罵声を浴びせたり、学校のグランドのU字溝にタバコの吸い殻を捨てるような人ではねえ…」
「うーん、8月からと思ってるんですけどねえ…。もちろん、外部からお願いしたコーチといっても、学校の管理下だっていうことはその通りですよ。最終的には私が責任を負います。本当はこの学校の卒業生みたいな子の中に引き受けてくれる子がいるといいんですけどねえ」

「問題は、誰がどういう質の人間を外部からお願いして、どこが責任を負うのかっていうことだと思いますよ。今の宇田川さんの状況はとてもよくない。まだ誰も正式にはお願いしていないのに、実質的には学校からお願いされたような立場で行動してるし、しかもそういう行動をしているにもかかわらず、どこもその行動に対して責任を負っていない。ここ何回かの練習試合を見ててもらえばわかったと思うけれど、もうまるで宇田川さんのチームのような振る舞いでしたよ」
「んー、それはまずいなあ。まだ正式にお願いしたわけじゃないですから。ちょっと私の方でも考えてみますよ」
「そうしてください。宇田川さんも、中にお子さんがいるわけだから保護者としての立場もあって、父母の中でトラブルにでもなったら、学校も宇田川さんもやりにくいですから。どなたかにお願いするとしたら、お子さんが内部にいない方の方がいいんじゃないですか」
「そうですね」
「宇田川さん個人の問題じゃなくて、学校がお願いしているボランティア全体の問題と捉えてもらいたいんですよね。部活動に限らず体験学習でお願いしているボランティアにしても、ボランティアなんだからこれでいいっていうことじゃなくて、技量の面でも人格の面でも子どもたちに与えるものとしてふさわしいか、きちっと学校の中で吟味していただかないと…」

結局、校長先生から宇田川さんをコーチにお願いすることはありませんでした。
前々回取り上げた、いじめっ子を投げ飛ばしちゃった警察官の問題も然りですが、指導者たるもの、たとえボランティアとはいえ、自分の感情をむき出しにするようでは指導者として失格ですよね。これからも、教育に関わるボランティアの人たちが増えていくことと思うけれど、“ボランティアだから…”というのはそろそろ終わりにしないとね。


**2003年3月2日(月)掲載**

 
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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