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2019年3月 7日 (木)

第93回 「性教育の難しさ その2」

前回からのつづき。

森泉先生(仮名)のお話で、保護者会の会場は一瞬ざわつき、すぐにシーンと静まりかえりました。

当時「素敵なお産をありがとう」は文化映画として高い評価を得、多くのマスコミにも取り上げられ、ビデオ化がなされたばかりの時でした。全国各地から上映会や講演の依頼が相次ぎ、幼稚園に通うお子さんから70代、80代のご年輩の方まで、幅広い年齢の方々に観ていただいていました。森泉先生とのやり取りの中で私が述べたように、このビデオは出産を取り上げてはいますが、「家族」がテーマのビデオです。「性」をどう捉えるのかによって扱い方が大きく変わってしまいます。滋賀県の青少年育成会議から上映依頼があった時には「子どもが生まれてくる瞬間だけ早送りしてはだめか」というビックリするような問い合わせがありました。最終的にはもちろん早送りなどせずに上映されましたが…。

マスコミがセンセーショナルに取り上げれば取り上げるほど、「出産」ということだけが一人歩きし、本来のテーマは置き去りにされてしまいます。それがまさに「性」ということがかかえる大きな問題なのでしょう。

それまでの性教育の授業参観で「どうすると赤ちゃんができるのか」というところまでを扱っています。今回の授業はそれを受けて「どうやって赤ちゃんが生まれてくるのか」というテーマです。

森泉先生によって、受精から出産までの胎児の様子について淡々と説明がありました。子どもたちがいるわけではないのに、保護者の反応を気にしてか、ちょっと緊張気味に、
「お母さんがこうやって産んでくれたということを子どもたちに伝え、ここで出産のビデオを見せます」と森泉先生は説明をしました。

ほんの数分間、子ども(翔)が生まれてくる瞬間の映像が流れました。お母さんたちの緊張した息づかいが聞こえてきます。
「ビデオを見せた後、出産の感動や生命の尊さなどを子どもたちに伝えたいと思います。こんな形で次回の性教育の授業は進めたいと思いますが、何かご意見がございましたらお聞かせください」

一瞬の間があって、その後数人の手が勢いよくあがりました。
「私は出産の場面を子どもに見せるのは反対です。きちっと性教育をしようとする先生方のお考えはわかりますけど、なにもここまで見せる必要はないんじゃないですか。まだ家庭の中でそんな話したことないし、子どもがショックを受けるだけだと思います」
「私はこういうものは見せたいとは思いません。だれかから教わらなくたっていずれわかることだし、もし教えるんだとしたら興味を持った時に話をすればいいんじゃないですか」

見せたくないという意見のお母さんたちの勢いに押されながらも、一人のお母さんが、
「ウチは男の子しかいないので、母親がこんなに苦しい思いをして赤ちゃんを産むんだということを教えてもらえたらとてもうれしいです」
「母親が息子に性や出産のことを教えるのはとても難しいので、これくらいの年齢から学校で性教育をしてもらいたいと思います」

顔を上げず黙ってじっとしている人も多くいましたが、意見はほぼ半々か、やや賛成の人が多いように感じられました。けれどもこういう時は反対の人たちのトーンが高いもの。反対の人たちの意見はどんどんヒートアップして、声も大きくなりました。私は黙って聞いていましたが、意見がほぼ出尽くしたところで手をあげて、
「わが家のビデオなので意見はちょっといいにくいんですけれど、今見ていただいたビデオは出産がテーマではなく家族をテーマに作ったビデオです。出産というところだけを取り上げて見てしまうとテーマが大きくずれてしまいます。私としては部分的に見ていただくよりも全編を見ていただきたかった。今ここでも意見が割れているように、性についてはそれぞれの家庭で考え方が大きく違います。そのことをよく考えていただき、先生方にお任せするということではどうですか」
と言いました。それを受けて森泉先生が、
「こういう問題は全員の方に納得していただけないと進めにくいものなので、今回はビデオは見せないことにします」

結局そういう結論になりました。
性に対する考え方は人それぞれなので、一様に学校で性教育を行うことはとても難しいことです。性に対する価値観を教えたり押しつけたりするのではなく、事実を客観的、科学的に教えることが重要なのではないかと考えます。もっとも何を客観的、科学的と捉えるかというところで考え方が違っているから東京都のようなことが起こるんでしょうけどね。

そうそう、おかしなことだけど、そのビデオを見せることに最も反対ですごく大きな声を張り上げていたお母さんは、その後のPTA活動でとっても仲良しになりました。子どもたちもとっても仲良し。「あのときすごく反対してたんだよね」って言ったら、「ワッハッハッ!」だって。今は自分の子どもにわが家のビデオを最も見せたい側の一人なんじゃないのかな?


**2003年1月19日(月)掲載**
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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