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2019年3月 7日 (木)

第92回「性教育の難しさ」

「東京都内の養護学校や小中学校の性教育に都教育委員会が不当な介入をし、子どもの教育を受ける権利や教師の教育の自由などが侵されたとして、教職員や保護者、研究者らが東京弁護士会に人権救済を近く申し立てる。代理人の弁護士によると、申立人には、映画監督の山田洋次さんや脚本家の小山内美江子さん、東京大教授の上野千鶴子さんも含まれ、千人を超える」(21日付 朝日新聞朝刊)という記事が新聞に載りました。

「申立書などによると、都教委は、体の名前を並べた歌や人形を使った都立七生養護学校(日野市)の性教育を問題視して、教材や教具を没収。30人を超す指導主事を派遣して教師から教育内容など異例の聞き取りをしたという。さらに盲・ろう・養護学校を調査し、学級編成や性教育などで「不適正な実態」があったとして、校長ら116人を処分した。他の小中学校にも「性交を授業で扱わない」などの指導をし、教師を委縮させたという。申し立てでは、教材などを返すよう石原慎太郎知事と都教委に勧告し、教師らに圧力を加えないよう警告することなどを求めている」とのことです。

性教育はそれぞれの家庭で考え方が違うので、とても難しいですよね。“正解”みたいなものがあるわけではないので、どういうふうな授業をするかはいつも手探りです。一般的感覚からあまりにずれたことをすれば批判を浴びる。かといって保守的になれば性に対する意識は育たない。性に対して「誰が、どこで、どういう役割を果たすか」、それが問われているんだと思います。

それにしても東京都の処置は、わけわかんない。これは価値観の問題だから“処分”じゃなくて、どこまでも“話し合い”なのに…。こういう強権的な政治はちょっと怖いね。ただ、授業をやる側にも生徒に対するそういう強権性があったんじゃないのかなあ?ちょっとそういう気はするよ。

「ビデオを授業で使わせてもらおうかと思うんですけどいいですか?」
翔(かける)が小学校2年生のときのこと。担任の森泉先生(仮名)から電話がかかってきました。
「どうぞ」
「ビデオは50分以上かかるんですよねえ。授業時間が45分なので、前後の休み時間を加えても、全部見せるのは無理かなあと思うんですよ。“見せて終わり”っていうわけにもいかないので…。それにまだ2年生っていうことを考えると長いかなって…。それで、授業としては“出産”ていうことの事前学習を充分にやって、出産の場面だけ使おうと思うんですけど、よろしいですか?」
「…。確かに53分なんで、授業時間に納めるのが難しいことはわかるんですけど、単純に“出産”がテーマのビデオじゃないですから。それだと曲がっちゃうなあ…」
「となりの増山先生(仮名)とも相談したんですけど、“赤ちゃんはこういうふうに産まれてくる”っていうことで使わせてもらおうかなって」
「んー… どうしても出産の場面のインパクトが強いんで、そうお考えになるのはわかるんですけど、“家族”がテーマのビデオですから…。どうしても全部っていうのは無理なんですかねえ? 2コマでやるとか…」
「そこまでやって理解できるかと…。まだ2年生ですから」
「私は逆に“まだ2年生だからなんの偏見もなく映像を真っ直ぐに受け止められる”と。まあ授業をやるのは先生方なんで、お任せするしかないですけど…。私としては全部見せてもらいたいっていう気持ちです。前後がないと全然違うものになっちゃうので…」
「大関さんのお気持ちはよくわかるんですけど…。もう一度増山先生と相談してみます」
「わかりました。ぜひ全部見せてもらいたいんですけどねえ」
「それと、内容が内容なんで使うっていうことになったら今度の保護者会で事前に保護者の皆さんにも見てもらおうと思うんですけど、いいですか?」
「そうですね。ウチとしてもその方がありがたいです。いろんなご家庭がありますから」

数日後の保護者会。
「増山先生と相談したんですが、やっぱり出産の場面だけということで」
「そうですか。わかりました」
「一応今日は、授業とまったく同じようにやって見せようかと思うんですけど。一応皆さんに了解していただくということで」
「ビデオの中で産まれてくる翔がいるわけだから、ウチも立場が難しいのでお任せしますよ。あんまり口を挟むわけにもいかないし…」
「すみません」

「皆さん、こんにちは。以前に性教育の授業を参観していただきましたが、今日の保護者会は今度行う性教育の授業をあらかじめ皆さんに見ていただくことにしました。幸い大関さんから“素敵なお産をありがとう”というビデオをお借りできましたので、それを取り入れた授業展開にしたいと思います。出産という内容のこともありますので、お考えがさまざまだと思います。今日見ていただいて、ご意見をいただければと思いますのでよろしくお願いいたします」

**2003年12月22日(月)掲載**
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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