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2019年2月12日 (火)

第75回「這えないのに這う沙羅」

深夜2時。
台所。
私は水を飲みに行きました。暗闇の中で、
「ガサッ、ガサガサッ。」
と音がします。ゴキブリのような小さな虫が出す音とは明らかに違います。音がするなどということをまったく予想していなかったので、音の出た場所があまりよくわかりません。あたりをぐるっと見回しますが、視界には何も入ってきません。
「???」
何かいる気配はあるのになんだかわかりません。こっちからは見えなくても、向こうからはこっちが見えているっていうこともあるので、ちょっと不安な気持ちになりながら、
「猫?」
(でもどこも開いてないよなあ…)
以前、玄関を開けていたらリスが入ってきてビックリしたことがあったので、まず「動物」という想像をしました。動物ならこっちの気配を感じれば大きく動きます。
一歩動いてみることにしました。
反応無し。
「ガサッ、ガサガサッ」
また音がしました。今度はこちらも音がするだろうという想像がついていましたので、音の出ている場所がだいたいどの辺か見当がつきました。
どうもダイニングテーブルの下あたりで音がしているようです。ダイニングテーブルを挟んでちょうど私が立っている反対側です。どうやらあまり動きの早くないもののようです。おそるおそる近づいて覗いてみました。
「沙羅ちゃーん!」
そこにいたのは生後6ヶ月になる孫の沙羅(さら)でした。
沙羅は母親の麻耶と一緒に隣の部屋で寝ているはずでした。確かに隣の部屋との境の戸襖が開いてはいましたが、沙羅はまだ這うことができないので、まさかこんなに遠く(5メートルくらいはあるでしょうか)まで移動しているとは夢にも思いませんでした。
「沙羅」
と声をかけるとこっちを向いてニコニコしています。
「こんなところまで来ちゃったんだあ。お母さんのところへ帰ろうね」
そっと抱き上げて、麻耶の隣へ寝かせました。またこっちを見てニコニコしています。そのうちくるっと向きを変えて、母親のおっぱいの辺りに潜り込みました。麻耶は寝ぼけているのか、目をつぶったまま沙羅を胸の中に抱え込みました。
翌日、沙羅の様子を見ているとまだ這うことはできませんが、自分のほしいものがあると、夢中になって手を伸ばし、おなかで滑って移動します。
「こうやって移動しちゃったんだ」
「おとなが眠ってるときは気をつけないとダメだね。うっかりすると、その辺に落ちてるもの、飲んだり食べたりするから、きれいにしておかないと…」
5人の子どもを育てていたときのことは、もうすっかり忘れましたが、この沙羅の様子を見ていて感じたのは、人間はやはり「その気になる」ことが重要なんだなあということです。
沙羅はまだ「這うことができる」という状況にはほど遠いのに、とにかく自分の興味のあるもののところへは必死に手と足を動かして進んでいきます。このときの目の輝きは、普通の状態の時とはまったく違って、キラキラしています。おそらく昨夜もこんな風にして自分の興味のあるものの方へと進んでいったに違いありません。沙羅にとっては相当の大旅行です。こんなに小さな赤ん坊でも、行動するときには「何かを獲得しようとする意志」が重要なんだということを強く感じさせる出来事でした。
おそらく、赤ん坊が這えるようになるには、運動能力はもちろんですが、この自分の興味のあるものを獲得するために「その気になる」ということが最も必要なんだなあと思いました。


**2003年8月25日(月)掲載**
※カテゴリー「子育てはお好き? ー専業主夫の子育て談義ー」は、2002年より2012年までの10年間、タウン情報サイト「マイタウンさいたま」(さいたま商工会議所運営)に掲載されたものですが、「もう読めないんですか?」という読者のご要望にお応えして、転載したものです。

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